「結成15周年記念特別演奏会 アンサンブル・ベガ 8人だけの夏」(2013年8月20日/宝塚ベガ・ホール)開催までのエピソードとスタッフの制作レポートです。
(長文ですので、お時間のある時にごゆっくりお読みいただければ幸いです)
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「夏はオペラを書くために、時間を空けたい。
だから(いつも新曲を発表している)ベガの定期(演奏会)の時期を変えることはできないかな」
(「ひえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーそ、ん、な、、、、、、、」)
(やっとメンバーのスケジュール調整が終わってホッとしていたところ)
(いや待て、コレは………チャーーーーーーンス!)
この春、アキラさんから、一本の電話がオフィスにかかってきました。
8月に予定していた「宮川彬良&アンサンブル・ベガ」の恒例の宝塚ベガ・ホールでの定期演奏会の時期を延ばせないかというもの。
理由は、この秋(9月20日)に控えたアキラさん自身初のオペラ「あしたの瞳」に向け、その作曲の時間をとるためです。
オペラ一本分にどのぐらいの楽譜のページ数が必要かは、オフィスに何冊かあるヴェルディやプッチーニのスコアがズッシリ重いことからも伺えます。
(これまでも、ミュージカルや大曲…たとえば「欲望という名の電車」とか「堕天使の恋」とか…に取り掛かっているときのアキラさんは、睡眠を削り作曲の傍ら、公演やテレビ、ラジオに出演していたのをかいま見た記憶があります。それが初めての「オペラ」!これはエライコッチャ)
で、あれば・・・・・・
(このあたりから、スタッフ、がぜん勢いづき)
(この8年間、ひそかに温めていた企画を、今こそ実行するときが来たっ!)
8人のスケジュールが合う日数が、いつもは飛び飛びに12,3日というアンサンブル・ベガの面々ですが、この夏、実は幸運にも一週間ドーンと予定が合わせられていたのです。
これはもう、8人のアンサンブル・ベガで聴く、純クラシックの室内楽演奏会をやるしかない。
「宮川彬良&アンサンブル・ベガ」とスタッフの出会いは、10年前。
当時から、このアンサンブル・ベガの編成が、八重奏の屈指の名曲シューベルト「八重奏曲」を演奏したいと(リーダーの新眞二の意志で)決まったことは承知していましたが、
1998年、第一回定期演奏会でこの曲を演奏して以来、その後、一度も演奏していないことが残念でなりませんでした。
シューベルトのこの曲を、この15年間演奏していないのには、この曲が全楽章で1時間を越える長大な作品であることや、
「クラシックやポップスといった音楽のジャンルを越えて、室内楽によるショーをつくる」
とする「宮川彬良&アンサンブル・ベガ」のコンセプトには、クラシック曲としての規模が大き過ぎ、プログラム全体のバランスが取りづらい…等々の理由があります。
しかし、結成15年の今年、円熟のアンサンブルを奏でるこのメンバーのオクテットを聴かぬ手はありません。
(さっ、曲目選定会議(と称した宴会)の日程調整だっ)
そうして開催されたのがコチラ。
4月初めのことでした。
議題はもっぱら、後半にシューベルトを演奏することは決まりとして、前半は何を演奏するか。
某クラシック音楽の有料ストリーミング配信サービス(ナ〇ソス)を使用して候補曲を聴いては、ワイワイ。パブリックドメイン(著作権の切れた作品)の楽譜が多数閲覧できるサイトで楽譜を検索してみてはガヤガヤ…。
結局この日は結論にいたらず、約一週間後に前半の曲目として決まったのが、
クラリネット鈴木豊人のたっての希望であった、
ドイツの作曲家、マックス・レーガー「クラリネット五重奏曲」。
(ちなみに、鈴木によると、このレーガー/シューベルトの2曲のプログラムは、
鈴木も参加していた、ヨーロッパで活躍する日本人演奏家による「ニッポン・オクテット」の
第一回演奏会(1985年)のプログラムと同じものであるとのこと。鈴木はその時以来のレーガー、
他の弦のメンバーは初めての取り組みとなりました)
公演のタイトルは「8人だけの夏」(スタッフ命名)。
その後、5月、6月、7月と初夏を準備期間に迎えた8月、いよいよ、アンサンブル・ベガ始まって以来の5日間連続のリハーサルが始まりました。
“いつもの”「宮川彬良&アンサンブル・ベガ」で演奏している楽譜は、ごく一部の純クラシック曲を除き、全てがアキラさんの筆によるもの。
つまり「その楽譜を書いた人が目の前にいる」のです。
楽譜や作曲者の意図について疑問があれば、すぐに質問することが出来ます。
しかし今回は、作曲者であるレーガーもシューベルトも既にこの世の人ではありません。
(クラシック音楽の世界では、たいていがそうですね)
つまり、楽譜への疑問の答えは、楽譜の中にのみ。
オーケストラであれば、指揮者が音楽の全体的な方向性やバランスを考えリードしますが、
室内楽はそうではありません。
「1パート1人」が室内楽の定義。
「完全民主主義」が鉄則です。
リハーサルは真剣かつ和やかに進みましたが、時に互いの主張がぶつかり合い、クールダウンの時間をとることも。
音を出す仕組みが根本的に異なり、楽器から音が出るタイミングも違う弦楽器と管楽器が混ざったアンサンブルには特有の難しさがあり、またそれこそが、得も言われぬ精妙なサウンドを作りあげる楽しみでもあるようです。
それにしても、5日間の集中リハーサル期間中、1度も「飲み会」はありませんでした。
(普通、音楽家は陽気に騒ぐのが大好き、アンサンブル・ベガメンバーも例外ではなく、スタッフは、この期間中2回は飲み会があるのでは、とひそかに予想していました。)
かくして迎えた公演当日、宝塚ベガ・ホールには、真夏のお盆明け、平日の夜にも関わらず本当に沢山のお客様がお越しくださいました。
公演の様子は、写真とライブ音源でお楽しみください。
♪当日のライブ音源♪
●Youtubeで聴けます●レーガー/クラリネット五重奏曲(全楽章)
●Youtubeで聴けます●シューベルト/八重奏曲(2-6楽章)
●アルバム(Facebookに登録していない方もご覧いただけます)
♪アルバム1
♪アルバム2
この日の衣装は、全員正装の燕尾服。
いつもの「宮川彬良&アンサンブル・ベガ」は、華やかなベストのアキラさんに、黒シャツ+黒ズボンのメンバーですが、今回はアキラさんがお休みです。
舞台に”華”を添え、この演奏に合うのは、ゼッタイ燕尾!と確信して「えー、暑い…」「エンビは動きにくいからなぁ…」というメンバーの声もなんとか振り切り、全員燕尾着用となりました。
しかしどうでしょう、燕尾姿のメンバーのキマッていること。
(燕尾にしてよかった!)
一番上の集合写真は、次回のアンサンブル・ベガ8人シリーズ(シリーズ化!?)のチラシに登場する予定です。
<余談と資料>
*今公演の当日配布プログラム
(表紙と同柄のA5版クリアファイルを、ご来場の皆様へのプレゼントでお渡ししました)
*ロビーの特別展示「アンサンブル・ベガの楽譜たち」
*スタッフ裏話
実は今回スタッフは、公演1ヶ月半ほど前「こんなにヒマでよいのか」と思ったのが正直なところ。
いつもの「宮川彬良&アンサンブル・ベガ」ではその時期、新たな台本、新たなアレンジの完成を待ちながら
必要となるかもしれない小道具や衣装に目算をつけ、すぐに入手できる心づもりをするなど、少ないイマジネーションを
フルに働かせているのですが…
今回は、純クラシックの作品を2曲、しかも「おしゃべりは封印」の『正統派』クラシックの演奏会とあり、そうした作業がありません。勝手が違います…。
そこで勢い、当日配布のプログラムとロビー展示企画にエネルギーが注がれることとなりました。
●スペシャル・コンテンツその1「宮川彬良&アンサンブル・ベガの音楽ができるまで」
いつもの公演で、アキラさんによる新曲が書きあがり、
写譜職人さんの手でパート譜がつくられ、リハーサルを経て本番にたどり着くまでを、写真とイラストで再現したものです。
●スペシャル・コンテンツその2「宮川彬良&アンサンブル・ベガ 全国行脚之図」
15年間に訪れた全国各地のホールを日本地図で一覧!
各地の名産に舌鼓を打つメンバーのイラストも新作描き下ろし。
イラスト担当は、チラシでもお馴染み、温かいタッチがいつも心和むイズミコさんです。
●盛りだくさんの文章は、結成当初から「宮川彬良&アンサンブル・ベガ」の構成脚本を担当する響敏也さんの愛情に満ちた曲目解説と、アキラさん、舞台監督・松田淳一さんの寄稿を収めました。
●ロビー展示
いつもメンバーが使用しているパート譜をご覧頂きました。
東京ハッスルコピー社の写譜職人さんによる美しい手書きパート譜に、個性あふれるメンバーの書き込みは、普段はまず見られないもので、皆さんにお楽しみ頂けたようです。
各メンバーへは、皆さんからのメッセージもピタピタと附箋に書いて貼って頂きました。
「ステージ上は、メンバーの演奏以外、なにも付け加える必要はなし。デコレーションは配布物と展示企画で」
と臨んだスタッフの夏も終わりました。
これからも「宮川彬良&アンサンブル・ベガ」また「8人のアンサンブル・ベガ」の活動に
暖かいご声援をお願い申し上げます。
(レポート文責:1号)