2015年11月13日(金)兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院 小ホール
「上杉春雄ピアノリサイタル ‟平均律+”vol.2」
~動きの間に色たちのぼる。音が動けば身体も踊る。
ピアニストと医師の2つの道を歩む上杉春雄が、年に一度、関西で行うリサイタルは、今年で3年目。
デビュー25周年コンサート「時を聴く」と題して開催した2013年に続き、昨年からは、ライフワークとして取り組み、東京、札幌で6年をかけて全曲演奏したバッハの「平均律クラヴィーア曲集1,2巻(全48曲)」から毎回8曲を弾くシリーズ”平均律+(プラス)”を始動。今年は2年目の開催となりました。
当日のプログラムノート(解説:上杉春雄/抜粋)はこちら。
プログラム
- J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻 第9番-16番
- ラモー:クラヴサン曲集より”アルマンド””クーラント””ロンド形式によるジーグ”
- ドビュッシー:「映像」第1集 ”水に映る影””ラモーを讃えて””動き”
- ショパン:ノクターン第8番 作品27-2
- ラヴェル:「鏡」より ”道化師の朝の歌” ”鐘の谷”
上杉春雄が弾くバッハの大きな魅力の一つは「バッハが近くなる」ことではないでしょうか。音楽室に貼られた肖像画で渋い顔をしてとっつきにくいイメージのバッハ。
ピアノを学ぶ人には「2声のインヴェンション」「3声のシンフォニア」「平均律」etc.の作品が、常に巨大な壁として立ちはだかるバッハ。
ともすれば「乗り越えなければならない壁」としてその作品に立ち向かうバッハが、
上杉春雄のピアノを通して聴くと『悩み相談に乗ってくれる、優しく時には厳しい人生の先輩』に思えてくるから不思議です。
その理由は、今回演奏した「平均律」第一巻の曲目解説で上杉春雄が書いた言葉から伺えるように思えます。
『我々の悩みに正面から向き合って、厳しく、かつ力強く支えてくれるような音楽』(第12曲 ヘ長調)
『鋭い痛みを持つ調です。フーガはとても胸をうつもので、必死に登ろうとするテーマと、涙がはらはらと落ちてくるようなモチーフの対比がとても美しい」(第14番 嬰ヘ短調)
石造りの堅牢な建築を思わせるドイツのバッハから一転して、後半は、フランスの作曲家・クープランの舞曲で幕を開けました。バッハとほぼ同時代の作曲家ですが、軽やかで優美な作風に、会場の空気もふわりと和んだようです。
シリーズ”平均律+”は、文字通り、毎年「平均律」になにかを「+(プラス)」して一夜のプログラムを編んでいます。今年の「+」は<音と心と色をつなぐ “動き”>でした。
クープランに続いて演奏されたのは、ドビュッシー、ショパン、ラヴェルの作品です。
曲ごとに立ち上ってくる、うつろう色合いや、時に鋭く刻まれるリズムが、すり鉢状の美しい、この小ホールというパレットで愉しげに遊んでいるようでした。
アンコールに演奏されたのは、先ごろ9月に亡くなられた助川敏弥さんの作品で「花の舞」「夢逢い」の2曲。助川敏弥さんは、実は上杉春雄の高校の大先輩にあたり、1曲目に演奏した「花の舞」は、上杉が初演した作品でした。
タイトルの通り、繊細でロマンティックな響きの小品に、ため息の漏れる客席でした。
ご来場の皆様の温かい拍手に感謝申し上げます。
上杉春雄の今後の出演予定は、オフィシャル・ウェブサイトをご覧ください
次回、来年の関西でのリサイタル日程は
2016年6月3日(金)19時開演 兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院 小ホール
詳細は追ってお知らせいたします
staff note
神経内科医とピアニストの2足のわらじを履く上杉春雄。今回のリサイタルは金曜日の開催でした。聞くとこの週も、月曜から木曜まではもちろん通常勤務(「ただし定時退勤させてもらいました」とのことでした)。この2足のわらじの原動力は、音楽に触れる時間が限られるがゆえに、だからこそ強まる音楽そのものへの信頼と、尋常ならざる集中力のたまものかと、改めて感じるリサイタルでした。
終演後、ご来場のお客様から「どうすれば、お忙しいのに練習する時間が?」とのご質問に「限られた時間での譜読み、練習、暗譜、すべてに脳と筋肉の連携や使い方で合理的な方法があります」と。
それらをレクチャーするセミナーなど、とっても面白そうですが、皆様いかがでしょうか?